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「AFTERNOON PIANONNO(アフタヌーン・ピアノンノ)」は、平成4年の北大ピアノクラブ創設当初所属していた部員のうち、一部のOB/OG仲良しメンバーが集まって2010年からやり始めた、小さなサロンコンサートです。茨城で知り合った音楽を愛する仲間さんたちと一緒に年に1度集まり、なるたけお金をかけずに気軽に音楽を楽しもうという、ただそれだけを思って始めた、ささやかな集まりです。 ぼちぼち、ゆる~く、続けていこうと思っております。よろづ帳はこちら! ブログへのご意見・ご要望はこちらまで。

2025年7月29日火曜日

AFTERNOON PIANONNNO 2025 M.Oさんの雑感!

 今回もまた、M.Oさんが、全曲所感を寄せてくださいました。いずれも奏者への優しさがあふれた文章です。


M.Oさんは、演奏会の最中、ずっと目を閉じて音に集中しています。その頭の中でどういう風に曲が耳から頭に入ってどう解釈されていくのかわかりませんが、録音がなくてもM.Oさんはその演奏を記憶をたどって頭の中で反芻して所感を書くのでしょうね。その集中力がいかばかりか想像もできませんが、ただただすごいなあと、感服してしまいます。いつもありがとうございます。以下に転載させていただきます。奏者氏名はイニシャルに変えています。



ここから ―――――――――――――――――


さて、感想と雑感です。

いつも以上に適当な事を書いている気はするんですが、印象が薄れるとなんか文章のための文章になってしまいそうで、取り急ぎ送ります。


今回はなんか全体の印象としてまったり落ち着いていた感じでした。凄い演奏で興奮の連続というより、リラックスした雰囲気が連続していた趣がありました。


●第一部 ―――――――――――――――――


★K.Sさん
  ショパン 華麗なる大円舞曲Op.18 

個人的な第一印象は「このテンポ落ち着くなあ」というものでした。この二十年くらいでこの円舞曲のプロの演奏は徐々にハイテンポになってる気がして久々にこの感じの演奏を聴いた気がします。まあ、譜面の指示はVivoなので現代のピアニストのテンポ感も間違いではないんですが、あくまで私自身の感覚です。

結果論ですが、振り返ってみると、今回のなんとなくまったりとしたアフタヌーンピアノンノの始まりにまさにふさわしい演奏だったと思います。




★K.Tさん
  玉置健人 夢後に揺蕩うゲオスミン
  玉置健人 Let me be gentle

ゲオスミンをタイトルに入れた楽曲、初めて見ました。皆が、「ゲオスミンって何?」と言っていたので簡単に説明すると、地中の真菌類が生産する芳香物質で雨の降り始めに地面からわずかに発せられる化合物です。人の嗅覚はこのゲオスミンにかなり敏感で、かなり遠方で雨が降り始めたら「なんか雨が降りそうな臭いがする」と感じる事があります。「夢後に揺蕩うゲオスミン」ということは、「窓を開けたまま昼寝していて、目覚めてぼんやりしてる時に部屋に入って来る風の中に雨の臭いをなんとなく感じて、何か現実感がなくてまだ夢の中にいるような様子」を表現したのでしょうか。実際、そんな感じの曲想でした。続くLet me be gentle、解釈として「私を怒らせるような事はするなよ」なのか「全くこまった奴だなあ」なのか、どちらかはわかりませんが、曲を聴く限りおそらく後者でしょうか。とにかく優しさが前に出てる曲でリラックスできました。まあ、どちらも解釈は私の大いなる勘違いかもしれません。その時は悪しからず。




★Y.Mさん
  モールアルト きらきら星

シンプルにテーマのユニゾンで終わると思いきや、後半は連弾となりボリューム感がでて、最後も洒落ていて、こんな編曲もあるんだと面白かったです。Y.Mさんの打鍵は曖昧さがなく、すっきりしたとても気持ちの良い演奏でした。




★Y.Sさん
  エルメンライヒ:つむぎ歌

全音ピアノピース007番。かなり久々に聴きましたが、やはり残る曲にはなんらかの魅力があるものですね。特にY.Sさんのように一つ一つ丁寧に音を紡いでいく感じに弾くとなんともほのぼのした気持ちになり、この曲の良さを再認識しました。




★A.Mさん
  久石譲:遠き時代を求めて(紅の豚)

好きな作品を弾く時のA.Mさんの集中力というのはいつも感心すると同時に、音楽への向き合い方について私自身も襟を正してしまいます。今回も最初の一音から「紅の豚」のあの世界観が広がっています。久石譲作品が好きと言うよりもやはりあの作品の音楽だから惹かれるという事もあるのでしょうか。ともあれ、出したい音へのこだわり、歌いたい旋律が存分に内面から外へ広がっていて良かったです。




★E.Uさん
  ショパン:幻想即興曲Op.66
  ショパン:子守歌 Op.57

幻想即興曲は毎度、何が幻想で何が即興なのかよくわからない曲ですが、やはりピアノという楽器のために作られた作品なんだろうと思います。そんな事が感じられる隅々までよく響く演奏でした。

やはりピアノでしか表現できない音の配置がよくわかった気がします。

子守歌はショパンとしては珍しいオスティナート伴奏の作品で、二部の舟歌同様に、右手の修飾演奏をいかに繊細にかつダイナミックに演奏するかが肝だろうと個人的に思うのですが、E.Uさんの演奏では息の長いフレーズも途切れることなく見事に表現していて感服です。




★W.Oさん
  ベートーヴェン:エリーゼのために

一音一音、慈しむように弾かれた「エリーゼのために」とてもよかったです。きちんと自分なりに音楽の流れを掴んで表現できていたところも非常に感銘を受けました。と同時に単純ながらベートーヴェンの構成力の良さを再認識できました。この曲を弾く事が出来るようになると、自然と音楽作品への構成感を身に着けることができるのかもしれません。「エリーゼのために」、昔は「なんでこんな作品が有名なのか」とか思っていた時期もありましたが、虚心坦懐に聴くと、やはり歌謡性とシンプルな構成、多少の名技性などが合わさって良くできた作品だと今は思います。




★T.Tさん
  平石博一:スティルライフ  
  ジョン・ケージ:Dream

スティルライフという作品は初めて知りました。タイトル通りの曲ですね。じっくりと音を重ねて分離してそしてまた重ねてと、音と音の間の感じが良かったです。Dreamは気が向いた時にCDなどで聴いていた曲で、実演に接することができて嬉しく、生で聴くとこんな感じに響くのだなとわかって、ちょっと感動しました。どちらの曲もペダルをどのように使ってあの音を出しているのか気になりました。弾く順番は確かにスティルライフが先の方が良かったですね。




★A.Oさん・M.Oさん
  サンサーンス:死の舞踏

久々にヴァイオリン+ピアノでこの作品を聴きましたが、凄くいいですね。リスト・ピアノ独奏版、ホロヴィッツ・ピアノ独奏版、管弦楽版、吹奏楽版など様々な編曲がありますが、やはり骸骨を表現するにはヴァイオリンが必要だなと実感。管弦楽版にも弦パートはありますが、やはり合奏でなくソロヴァイオリンの木の質感が必要なんですよ。無論、それぞれのヴァージョンに良さがありますが、サンサーンスもおそらくはヴァイオリンを弾く死神のイメージはあったんじゃないかなと勝手に想像してます。




★Y.Mさん
  ショパン:ワルツ5番 Op.42
  ショパン:ラルゴ B.109 
  シューマン=リスト:献呈

演奏が始まる時、「荒ぶる気持ちを落ち着かせるために途中でラルゴを入れる」と聞いて「凄いなあ。自分のコントロールを曲目で調整するのか」と驚きました。普通はそんな精神状態だと「あの曲で落ち着かせよう」と言う発想は出てこないと思う訳ですが、何というか音楽への忠義心が本物なのだなと感じました。そして献呈の非常に激しい演奏を聴いていると、音楽への熱い想いと実際のピアノとの格闘の落差に悩んでいるのかもしれないとも思いました。当然、素人な私からは何もアドバイスはできない訳ですが、これからきっと若さと情熱で乗り切ってゆく事になるのでしょう。今後どんな成長ぶりを見ることができるのか、個人的にはワクワクしています。あと、鉄道も好きなんでしょうかね。ご存知かとは思いますが、アルカンの「鉄道」という曲にも挑戦してみるのも良いかもしれません。





●幕間 ―――――――――――――――――


幕間:K.Tさん マイクロフォンフォンの実演

ハウリングを調整する事で音高と音量を調節するマイクロフォンフォン。生じる音はデジタル音源ながら、その発音機序は極めてアナログであるところに新しさを感じました。

年寄なので、シュトックハウゼンの「万国博覧会」などをついつい思い出しましたが、偶然性に頼る訳でなく、かといって予め設定した演奏様式になる訳でもない。どうしても部分的に不確定要素が入り込みやすい楽器と思われるので、意外と尺八や琵琶などの和楽器に似た所があるのかなと思いました。演奏法に熟達しても、なかなか決められた譜面通り演奏するのは困難なような気もして、むしろそこに可能性を感じます。個人的には既存曲を頑張ってきっちり演奏しようとするよりも、何気ない鼻歌のような原初的な音楽の表現に向いているのではと思いました。








●第二部 ―――――――――――――――――


★M.Oさん
  ドビュッシー 前奏曲集から亜麻色の髪の乙女

ドビュッシーは実生活では愛憎劇ドロドロな感じで、側にいたら相当に迷惑な人だったようです。しかし、残された作品にはその人間関係ドロドロ要素はほぼ皆無で、まるで人間以外のこの世界の博物誌のような趣を持った作品が多いです。前奏曲集は特にそんな感じで、それぞれにドビュッシー自身がつけた表題があります。ただ、彼が自然や様々な事物から本当の所は何を感じ取ったのか、そしてどこまで本気で表題を考えたのか微妙な所もあるような気がして、随分昔に前奏曲それぞれに個人的に勝手に新たな表題をつけてそのイメージで鑑賞するようになりました。で、「亜麻色の髪の乙女」です。おそらくは片想い的なロマンスをぼんやりと想像しながら演奏する人が多いとは思いますが、私のイメージは「珊瑚礁」なのです。水深数mの淡くブルーな背景に広がる極彩色の珊瑚の森。M.Oくんの演奏はその珊瑚礁の個人的なイメージに完全に合致した繊細で広がりのある色彩感あふれるもので、昔に想起した珊瑚礁のイメージが久々に鮮明によみがえりました。




★K.Oくん
  メンデルスゾーン:三つの幻想曲あるいはカプリス
  Mrs.GreenApple: 天国

メンデルスゾーンでは小節単位で枠組みを作ってかなりカッチリした古典派様式を意識させる演奏でしたが、Mrs.GreenAppleになった瞬間に一気に狂詩曲風になってびっくりでした。まるで木簡に篆書体をじっくり刻印していたところから、3畳くらいある和紙いっぱいにいきなり2mの筆で草書体を描き始めたような衝撃がありました。きっと、どちらもK.Oくんの溢れんばかりの内なる音楽なのでしょう。




★M.Oさん
  大平万里:コラールとアリエッタ

30年前の大学院時代になんとなく弾いていたものの録音が残っていて、それを昨年発見して改めて譜面に起こしたものです。曲と言うよりも、旋律に簡単な伴奏や和音つけただけの稚拙な音楽です。ただ、音楽というのは、その頃の空気感を結構鮮明に封入するもので、録音を聴いた瞬間、忘れていた「あの頃の感じ」に心はすっかり戻ってしまいました。とはいえ、不思議な事に、今の自分が譜面を見ながら繰り返し弾いていると徐々に「今の空気の音楽」に変容してゆくのです。要は今の自分の身体に馴染んできたということでしょうか。私事ながら、ちょうど1年前に母が亡くなりました。亡くなる直前にこの曲を母のそばで弾き、なんというか母が最期に聴く音楽として意外と合ってるなと思いました。別に母の最期のために作った訳ではないんですけど、因果が巡るというやつでしょうか。




★Y.Sさん・W.Oさん
  木村弓:いつも何度でも

Y.SさんとW.Oさんの素直な演奏を聴いて、改めて名曲だなあと思いました。歌詞もそうなんですけど、曲自体も本当にいいですね。今のところ、ジブリ作品で興行収入トップの「千と千尋の神隠し」なんですが、やはりこの作品におけるこの曲の存在感は大きいなと思いました。おそらくは年齢を重ねた後にこの曲を再び弾く時、今とは違う何かを感じるような気がします。というか、この作品が公開された時、二人ともまだ生まれてないんですね。




★Y.Oさん
  ドビュッシー:前奏曲集から沈める寺

M.Oくんに続いてドビュッシーの前奏曲です。「沈める寺」は個人的なイメージは「シロナガスクジラの凱旋」でした。遠くからエコーロケーションをかけながらクジラが迫ってきて、ついには大接近してその圧倒的な存在に我々人間はひれ伏し、そしてまた遠くへ去ってゆく、そんなイメージを持っていたのですが、Y.Oさんの演奏を今日聞いて新たな視点・考えが浮かびました。それはドビュッシーが作曲した当時のピアノ(主にベヒシュタイン)と現代のピアノは基本的なシステムが同じながらもやはり様々に改良が重ねられ、随分と違う楽器になっているのではという事です。現代ピアノで存分に響かせて大音量で弾ききる「沈める寺」はやはりドビュッシーが想定した音量の閾値を超えているような気がしないでもない。といっても、ドビュッシーの意図を外しているという訳ではない。ということで、Y.Oさんの演奏を聴いて新たに生じた妄想は「シロナガスクジラと原子力潜水艦との邂逅」。現代ピアノの合理的な設計による工業化の象徴たる原子力潜水艦と数千万年前に海へ進出した大型哺乳類との邂逅。要するにそれくらいスケール感のある演奏だったという事です。




★I.Kさん・S.Kさん・N.Mさん・A.Mさん・A.Oさん
  松任谷由実:春よ、こい  
  中島みゆき:ヘッドライト・テールライト

どちらも個人的に思い出深い曲で二人の歌声にすっかり浸りきってしまいました。「春よ、こい」は朝ドラで使われていた頃はそうでもなかったんですけど、合唱曲として歌われるようになって、高校の合唱部が春になると盛んに練習するようになって、春先の学校の初々しい喧騒を連想してしまう曲になりました。前奏をちょっと変えると「戦場のメリークリスマス」になる事に気付いたのはちょっと後になってから。「ヘッドライト・テールライト」もまたNHK某番組のテーマソングの頃にはあまり聴いてなくて、単独でじっくり聴くようになって、いろいろな出来事と関連しあって印象深い曲になりました。同じ中島みゆきの「時代」にちょっと似ている所がありますね。ヴァイオリンの間奏も良い味わいが出ていて素晴らしかったです。




★M.Oさん
  ショパン:舟歌 Op.60

今回、オスティナート伴奏ショパン作品2曲目。こちらの方はよりドラマ性があり、舟歌といいつつ波乱も途中にあるスケール感のある作品。M.Oさんの演奏、以前に比べて随分と「潤いが増した」と思いました。平たく言えは「円熟」と言う事なんでしょうけど、例えて言うなら「シフォンケーキと思って手にしたら実はベイクドチーズケーキだった」という感じの充実した演奏だったと思います。ソフトペダルを使わずにこの芳醇な演奏というのも何気にすごいです。




★A.Oさん・T.Sさん・Y.Mさん
  米津玄師:打上花火

やたらにハイテンポ・ハイテンションな米津玄師の主題歌だらけな今日このごろですが、じっくり聴かせるタイプの「打上花火」は多くの人が米津玄師を知るきっかけとなった曲でしょう。しかし、もう7年前なんですねえ。弦楽とピアノバージョンは初めて聴きましたが、歌唱ではサクサク進むところが少し汲々と切なく歌われてなんともいえない情緒を醸していて良かったです。この曲、合唱曲にもなってるようで、ある意味汎用性があるなあと思います。さすがに「Plazma」や「Bow and Arrow」は合唱曲にはならないよなあ、と三人の演奏を聴いていて思ったりしました。




★M.Mさん
  プロコフィエフ:ピアノソナタ7番2楽章  
  ビゼー・ホロヴィッツ:カルメン変奏曲

意図してなのかたまたまなのか、まずこの順番で弾くことにしたアイデアに脱帽です。プロコフィエフ7番2楽章は「鐘」が象徴的に何度も登場し、その余韻を残して怒涛の終楽章につながってゆく訳ですが、そこからカルメン変奏曲へというあまりに自然な流れに驚きです。鐘による不穏な予感からカルメンの悪魔的で奔放な挑発が始まる訳です。カルメン変奏曲は、そもそもホロヴィッツは譜面に残してるわけでなく、あくまでホロヴィッツ自身の即興演奏が元です。しかし、ホロヴィッツマニアの人々がホロヴィッツの録音から採譜してその譜面がインターネットの普及と共に1990年代初頭に日本のピアノ愛好家経由で世界中に広まりました。今となっては、相当な数のピアニストのアンコールピースとして定番の曲になっています。そして、かなり最初期に演奏会でカルメン変奏曲を弾いた一人が北大ピアノクラブの大渕良弘氏です。その大渕氏の演奏に感化されたM.Mさんがついに今回挑戦した訳で、時の流れを感じます。弾けるときに弾く。大事な心掛けです。で、演奏ですが、要所要所の強烈なアクセントがちゃんとあって悪魔的な響きも強調されていて、実にメリハリのある私好みの演奏で感動しました。腕に覚えのあるピアノ愛好者あるいはプロのピアニストがしばしばこの曲に挑戦する訳ですが、やはりいくら譜面通りにすべて正確に打鍵し、爆速でスマートに弾ききっても、それだけではこの曲の底知れなさは出てこないのです。どうしても「アクの強さ」と「悪魔的な部分」がないと物足りない。個人的には多少のミスタッチよりも「アクの強さ」「悪魔的な部分」の方が大事です。その点、M.Mさんの演奏は私としては完璧です。





●第三部 ―――――――――――――――――

★水本桂さん
  ショパン:バラード2番 Op.83
  ベートーヴェン:ピアノソナタ31番 Op.110

ショパンのバラード。これまでの演奏からして「張り詰めた感じでグイグイ聞き手を惹きつけてゆく感じ」なのかなと想像していたら、今回は「ゆったりとした物語の潮流に身を任せさせてくれる」ような「いつのまにか馴染んでゆくショパン」のように感じました。全体を俯瞰して各部分の音楽要素を適宜配置しているような印象。「見通しが良い」というとありきたりな表現になってしまいますが、ともあれ桂さんの気質は変わらなくとも、その表現は年々深化してゆくものだなと実感できました。

無論、ベートーヴェンも同じ事が言えて、桂さんが北大にいた頃には「ベートーヴェンが何言いたいのかわからない」とか言いつつ、ベートーヴェン作品をバリバリ弾いていた記憶があるのですが、ピアニストとしてのキャリアの他に、人生経験も重ね、世界の情勢も変わり、自身でも気付かない内面的変化があるのだろうと思います。「この曲は一生かけて勉強」と言う話をしてましたが、ベートーヴェンがこの曲を作ったのは51歳の時。やはり、その年齢に近づくと何か見えてくるものもあるのかもしれません。





●アフター特別編 ―――――――――――――――――

★M.Iさん
  ラヴェル:「クープランの墓」から「前奏曲」「フーガ」
       「鏡」から「道化師の朝の歌」

クープランの墓、バロックの箱庭のような、あるいは触ったら壊れてしまう干菓子のような実に微妙なニュアンスに満たされた充実した演奏だったと思います。

薄い紙一枚をはがしたらすべて崩れてしまそうな絶妙なバランスのうえに成り立っている感じで、聴き手の私までドキドキしてしまいました。弾いた時間帯(夜8時前後)の空気感も影響していたのかもしれません。とあもれ、M.Iさんが私たちだけにこっそり見せてくれた宝箱と言ってもいいかもしれません。

ところが、道化師の朝の歌となると当然ながら、一転してがらっと空気が変わります。前年の演奏は私の場合BDでしか聴いてませんので、正しい比較ができるかどうかわかりませんが、今回の演奏で強く感じたのは「音の遠近感が効果的に出ていて、音像の広がりを感じられた」ということです。どういう工夫でそれが実現しているのかわかりませんが、バスク地方の荒原における道化師の朝の歌のイメージがより鮮明に聴こえてきた感じがしました。


ここまで ―――――――――――――――――



M.Oさん、演奏会の3日後にこの所感を送ってくださいました。昔、学生時代、演奏会終了後の打ち上げで、演奏会のアンケートをみんなで楽しく読んでいたことを思い出します。自分の演奏にフィードバックがあるのは本当に嬉しいものでした。M.Oさん、お忙しいのにありがとうございました!


AFTERNOON PIANONNO 2025 ご参加御礼

 2025/7/26の土曜日、恐ろしいほどの日射でアスファルトがフライパンのようになる中ですが、今年も無事にいつも通り、楽しいひと時を持つことができました。まずは、ご来場いただいた皆様に御礼申し上げます。





今年は、去年もそうでしたが、若い人たちの躍進というか、意気を感じる演奏が多かったように思います。年寄りは年寄りで、年寄りなりの音楽の楽しみ方をするわけですが、やはりエンジンの吹きあがりがパワフルな若さを目にすると、嬉しくなってしまいます。





そんなわけで、今年のプログラムを以下に掲載します。奏者はイニシャルにしています。



●第一部―――――――――――――――――

・K.Sさん ショパン:華麗なる大円舞曲Op.18 

・K.Tさん 玉置健人:夢後に揺蕩うゲオスミン、Let me be gentle

・Y.Mさん モールアルト きらきら星

・Y.Sさん エルメンライヒ:つむぎ歌

・A.Mさん 久石譲:遠き時代を求めて(紅の豚)

・E.Uさん ショパン:幻想即興曲Op.66、
      ショパン:子守歌 Op.57

・W.Oさん ベートーヴェン:エリーゼのために

・T.Tさん 平石博一:スティルライフ  
     ジョン・ケージ:Dream

・A.Oさん・M.Oさん サンサーンス:死の舞踏

・Y.Mさん ショパン:ワルツ5番 Op.42
      ショパン:ラルゴ B.109 
      シューマン=リスト:献呈


●幕間 ―――――――――――――――――

・K.Tさん マイクロフォンフォンの実演



●第二部 ―――――――――――――――――

・M.Oさん ドビュッシー 前奏曲集から亜麻色の髪の乙女

・K.Oくん メンデルスゾーン 三つの幻想曲あるいはカプリス
      Mrs.GreenApple: 天国

・M.Oさん 大平万里 コラールとアリエッタ

・Y.Sさん・W.Oさん(四手連弾) 木村弓:いつも何度でも

・Y.Oさん ドビュッシー:前奏曲集から沈める寺

・I.Kさん・S.Kさん・N.Mさん・A.Mさん・A.Oさん(ピアノ+ベース+ヴァイオリン+ヴォーカル)

      松任谷由実:春よ、こい  
      中島みゆき:ヘッドライト・テールライト

・M.Oさん ショパン:舟歌 Op.60

・A.Oさん・T.Sさん・Y.Mさん(ヴァイオリン+ヴィオラ+ピアノ)
      米津玄師:打上花火

・M.Mさん プロコフィエフ:ピアノソナタ7番2楽章  
      ビゼー・ホロヴィッツ:カルメン変奏曲



●第三部 ―――――――――――――――――

水本桂さん ショパン:バラード2番 Op.83
      ベートーヴェン:ピアノソナタ31番 Op.110



●アフター特別編 ―――――――――――――――――

M.Iさん ラヴェル:「クープランの墓」から「前奏曲」「フーガ」
         「鏡」から「道化師の朝の歌」



今回、飛び入りで曲追加が2曲、自作の曲が4曲、さらに幕間には新楽器のご披露なども入れていただき、いつもに増してサプライズというか、面白い演奏会になったなあと思います。こうした、予期せぬことが起きるのがライブ演奏の醍醐味です。




そして今回も多くの皆様にたくさんお手伝いをいただきました。

PA機材とコーヒーメーカーをご提供いただいたI.Kさん、ありがとうございました。

写真はヒデヒロくん、いつも素敵な写真をありがとうございます。素敵なスナップが沢山です。

看板を描いて(作って)くださったM.Mさん、今回はついにキャンバスを抜け出して、立体造形物に進化しました。この発想力には本当に脱帽です。

プログラムはA.OさんとM.Oさん親子作です。いつもありがとうございます。プロローグの文章もしみじみ、デザインも素敵でした。

そしていつも素敵な差し入れを下さるK.Sさん、Oさん、そのほか面白そうな北海道土産や岩手土産がありました。ありがとうございました。みんなで美味しくいただきました!

そして、いっぱい弾いて聴いてくださったすべてのみなさま、ありがとうございました。



これから私はブルーレイの制作に入ります。今年は録音レベルを少し失敗してしまい、音量が大きいところで若干歪んでしまいました。大変申し訳ございません。。。次回頑張るということでお許しをいただきたく。できあがりまで、今しばらくお待ちください。



ではでは。まずは、御礼まで。










2024年9月1日日曜日

AFTERNOON_PIANONNO 2024 ユングの自分を棚上げ所感!

アフタヌーン・ピアノンノ2024、無事に終わりました。

生きていれば人生いろいろなことがあり、辛いこと楽しいこと驚くことがいっぱい。演奏会を楽しむということも決して当たり前ではないのだなと、コロナで思い知りましたが、そんな中で、楽しく終えられたのは、有り難いことだったなあと、すべてのことに感謝するばかりです。





ブルーレイとDVDの焼き、発送も終わり、これが今年の最後の作業と思うと、少し寂しくもありますが、つたない文章ではありますが、演奏曲すべてに私が個人的に感じたことどもを簡単に綴ってまいります。

演奏者氏名はイニシャルにしております。






●第1部

K.Mさん             ブルグミュラー  アラベスク

ピアノ教室に通うっていれば必ず弾くことになる、有名な曲です。
難しい左手も頑張り、しっかりリズムも取れて、最後まできっちりノーミスで弾ききりました。
堂々たるトップバッターでした。


H.Nさん             マイカバル  ワルツ
                  カラフルピーチ  OnParty!

ワルツが特に良かったですね。この年齢でもうきれいな音を出せている。
そのうちペダルも使って、もっときれいな旋律を聞かせてくれそうな気がします。
2曲目は最近流行の歌。ベースとメロディのバランスも良く、しっかり最後まで弾けました。


S.Sさん             モーツァルト  トルコ行進曲

のだめカンタービレ・最終楽章(前編)でのだめが進級試験で弾いていた曲です。
誰もが知っている有名な曲ですが、巷で一般的によく弾かれるのは抜粋か簡単バージョン。
フルスペックの楽譜はかなり難易度が高く、今回それに挑戦した度胸と、最後まで止まらず安定して弾ききった努力が素晴らしい。よくやりました。
ちなみに私も昔挑戦しましたが、譜読みで諦めました(涙)


Y.Sさん             ギロック  ウィンナーワルツ

ギロック、素敵な曲がいっぱいありますよね。これもそんな中の一つ。
子供用のペダルを使って、手の交差もばっちり。
曲の可愛らしさをしっかり表現できていました。素敵でした。


M.Iさん             田中カレン  「星のどうぶつたち」より 「きりん」
                  スカルラッティ  ソナタ K.159L104ハ長調

星のどうぶつたちは、いろんな動物をモチーフに曲に仕上げたシリーズですが、ほかにも素敵な曲がいっぱいあって、個人的にこのきりんもそんなうちの1つで、聞いていて嬉しくなりました。親子でじゃれあっている可愛らしいきりんが見えたような気がしました。
スカルラッティもそんな流れのまま、可愛らしい演奏でした。


Y.Sさん・M.Oさん       黒須克彦  夢をかなえてドラえもん

先ほどのお子さんが今度は先生と連弾です。ベースが先生、生徒さんがメロディで歌っていました。
たぶん誰もが知っているこの歌。選曲もいいですね。きっと聴いていたみんなも心の中で歌っていたのではないでしょうか。
楽しい連弾でした。


Y.Oさん             サティ  ノクチュルヌ 第1番

今年はパリ五輪と重なり、なにかと巷ではフランスが熱い日々でした。そんな中、サティを選んだのが五輪からなのかはわかりませんが、なんとも物憂げでゆったりサティですが、途中から少し強めのリズムが出てくるところから空気が少し変わり、風が吹いていました。
その後また物憂い旋律に戻るのですが、終わり方も唐突で、サティらしい、なんとも不思議な世界でした。


Y.Mさん・K.Sさん       リチャード・ロジャース  ドレミの歌
                  HansZimmer/KlausBadelt/GeoffreyZanelli  彼こそが海賊

出演者の中では最年少。でも舞台度胸はずば抜けてナンバーワンでした。
先生がベース、生徒さんはメロディ部分担当。迷いのないしっかりしたタッチで、先生に音量で全然負けず、ノーミスで弾ききりました。
なんなら先生をリードするぞくらいの気迫を感じました。かっこいい海賊でした!


K.Sさん             ドビュッシー  ベルガマスク組曲より 月の光

月の光、よく弾かれる曲です。個人的にこの曲大好きで、曲目の中に見つけて嬉しかったです。
非常に繊細で流れるような強弱のうねりをしっかりコントロールしていて、月下の美しい世界を表現されていました。聴衆みんな、ひととき別世界に連れていかれたようにシンと聴き入っていました。ブラボーです。


M.Mさん             シューマン  幻想曲Op.17第3楽章

今年も岩手から足を運んでくださいました。それだけでも涙がちょちょぎれます。
そして今回は若い世代へのエールをこめて演奏したとのこと。
こんな安らぐ世界があるのかと思うくらい、ひととき完全に脱力して、ゆーったりとただ流れ来る音符に身を任せていました。
余談ですが、この方は演奏する時の姿勢が素晴らしいです。体にムダな力がどこにも入っていないのですね。
この人の音楽との向き合い方を象徴しているような、天衣無縫、ただただ素敵な演奏でした。





●第2部

K.Mさん・T.Mさん        AlanMenken  UndertheSea

パパと娘さんの連弾です。毎回出てくださっているご家族さんですが、パパがお喋りする姿を誰も今まで見たことがなく、演奏前に喋る姿がみんなサプライズでした。
パパさんがバックリズム、娘さんがメロディを歌っていました。息がぴったりなんですね、ほんとに。とってもリズミカルで、ずれたらアウトなんですが、最後までほとんどずれずに。
いっぱい楽しく練習したのだろうと思います。その様子が思い浮かぶような演奏でした。
終わった後には娘さんからの先生へのあいさつ。スポーツに打ち込むため最後のピアノ演奏会になる生徒さんから先生に花束サプライズ。
先生はうるうる。聴衆のみんなもうるうるでした。お疲れさま。スポーツ頑張ってね!


K.Oさん              ブルグミュラー  マーチ
                   ウォルピスカーター  天ノ弱

遠く宮城から来てくれました。岩手のM.Mさんの甥っ子さんです。
小さいのにこんな指が回って飛躍してまったくノーミスで安定感抜群、しっかりとこの曲を弾ききって、聴衆がマジか的な静けさに。
いやー、すごい子がいるもんだ、と驚きました。そしてなんと、プログラムにはないけど弾きたい曲があるので飛び入りでもう1曲弾いてくれました。
そちらは自分で耳コピした流行歌。ポップスの耳コピって、特にリズム表現が難しくてダサくなることが多いんですが、彼の耳コピは左手のリズムがしっかり速く音量もしっかり出ていて、疾走感に満ちていました。
小2でこんなことが?目の前で起きていたことがちょっと信じられないような、聴衆の心を全部持っていく名演でした。ブラボー!!



Y.Nさん・H.Nさん        行進曲メドレー(おもちゃの兵隊の行進~トルコ行進曲)

兄と妹連弾です。いいですねえ兄妹やはり息が合いますね。リズムがまったくずれずに。
そして、このメドレーのつなぎの構成も自然でいいですね。
とっても仲良し感が感じられる、ほっとする演奏でした。


E.Uさん              バルトーク・ベーラ  ルーマニア民族舞曲
                   アラム・ハチャトゥリアン  トッカータ 変ホ長調

ピアノクラブ時代から抜群の安定感をキープしていた人だったので、まあそうだろうとは思いましたが、やはりとんでもない演奏でした。
いやー、ほんとこの人はすご過ぎる。アフタヌーン・ピアノンノに聴衆としてずっと来てくださっていたのですが今までは演奏者側には回らず、聴き専だったので忘れかけていましたが、今回満を持して能力全開放でした。バルトークもハチャトゥリアンも、怒涛の勢いで聴衆の心すべて持って行ってしまいました。超絶ブラボーです。


A.Mさん              飯田俊明  沁みる夜汽車
                   加古隆  グラン・ボヤージュ

司会の私はNHK2曲でした。グラン・ボヤージュはNHK「映像の世紀バタフライエフェクト」の挿入曲です。完成度はともかく好きな曲が弾けたので悔いはなく嬉しかったです。


S.Sさん・K.Sさん        大野克夫  名探偵コナンメインテーマ

母娘の親子四手連弾です。みんな知ってるアニメのテーマです。
こういうみんなが知ってるポップス・アニメ系は、再現度が命で、なかなかリスキーですが、母がベース、娘さんがメロディで、メインの旋律以外の装飾パッセージも再現。ほぼ原曲のイメージで、速度もほぼ同じ。いやいや見事でした。
聴衆の皆さんの心にきっと江戸川コナンと毛利蘭が現れたのではないでしょうか。最後のオクターブ連打もばっちりでした!聴いていて爽快でした!!


Y.Mさん              ショパン  スケルツォ2番

子供のころから参加してくれていたバイオリンのA.Oくんが、ピアノのお友達を連れてきてくださいました。
若い人たちの世界が広がっていくのを見るのは嬉しいものです。しかも、ショパンのスケルツォ2番とか、やばいです。
相当やっていなければそもそもこの曲に挑戦などしないでしょうが、この難曲を、ほぼノーミスで最後まで弾ききる体力と迫力。
若さと熱量がすごい。この先も立ち止まらずにどんどん難しい曲に挑戦していってほしいです。





●第3部

W.Oさん              ショパン  ワルツKKⅣb-11
                   あいみょん  愛の花

ショパンのワルツの遺作。決して表現が簡単ではない曲ですが、この曲のもの悲しさをしっかり表現できていました。
この子とてもきれいな音を出すんですね。濁りがなく、自分の音を自分でちゃんと聴いています。
そして、あいみょんの歌、これかなり心に残りました。好きな曲なのでしょうか。そんな思いが伝わってくるような名演でした。


Y.Nさん              カバレフスキー  ウクライナ民謡による7つの陽気な変奏曲

民謡です。どこか懐かしいような、故郷の土や草や木の匂いがする、田舎の人々が踊っているような、そんな情景でしょうか。私には見えました。
表情変わって少し悲し気なシーンあり、そして変化をもたらすリズム。強弱の制御にも心を砕いて、とても表現力を感じる演奏でした。素晴らしかったです。


A.Oさん(Vn)・T.Sさん(Viola)・Y.Mさん(P)    加古隆  パリは燃えているか

NHKのドキュメンタリー「映像の世紀 バタフライエフェクト」のメインテーマです。
今回、バイオリンのA.Oくんがビオラのお友達を連れてきてくださり、先のピアノのY.Mさんと3人でアンサンブルを披露してくださいました!!
ビオラはまだ始めて間もないそうですが、ベースをしっかり踏み固めるピアノと先導するバイオリンに導かれて、しっかり弾けていたと思います。
この曲、哀しいけど、いい曲です。若い人たちがこの曲を選んだのも、なにか意味がある気がいたしました。


M.Oさん              ラヴェル  水の戯れ
                   ベートーヴェン ソナタ「月光」第3楽章

ピアノ教室の先生です。やはり今年はフランスが多い気がします。個人的には彼女にはベートーヴェンなどドイツのイメージを持っていたのですが、なんでもできちゃうんですね。ラヴェルは有名なのはボレロですが、ピアノ曲もいっぱいあって、どれも絵画の世界の中のように美しく流麗で、感情ではなく情景という感じでしょうか。水の戯れ。静かな池の水面に広がる波紋のさやけさ、川の流れのきらめきと美しさ。
情景豊かな世界に引き込んでくれました。
そして、飛び入り追加で始まったのはなんと月光第3楽章。これぞ、という彼女のイメージですね。いつでも弾けるくらいに指に沁みついているのだと思います。天晴な演奏でした。


A.Oさん(Vn)・M.Oさん(P)   松本文紀  刻ト詩(ときとうた)

この曲、私は初めて聞きました。疾走感に満ちた曲。調べると、「サクラノ刻~櫻の森の下を歩む~」というタイトルのアニメなのかゲームなのか?の主題歌のようでした。
バイオリンほんとうに上手になりましたね。そして、この曲はきっと彼が自分で耳コピして、ピアノ+バイオリンで編曲したのでしょう。
音楽好きそのままに、音楽の世界を自分で広げて楽しんでいる姿を見ていると、しみじみ嬉しくなりました。今年から学生のオケに入られたとのこと。
これからももっともっと世界を広げて、音楽とともに歩んでいってほしいなあと願ってやみません。


M.Iさん              リスト  超絶技巧練習曲 第4番「マゼッパ」ニ短調S139-4
                   ラヴェル  鏡より第4曲「道化師の朝の歌」

リストの超絶技巧を生演奏で聴くことなどそうそうあることではなく、しかもほぼノーミスで、ピアノという楽器の性能の限界まで引き出す、ダイナミックレンジを端から端まで使い切る、途方もない演奏でした。
今年から音大の院に進まれた彼女は、子供のころからただものではない並外れた技術と表現力を見せてくださっていたのですが、今ではもうセミプロの領域にあって、技術どうこうというところを超えているように思います。
眼をつむって聞くと、練習曲というより、それ自体でなにかをイメージした作品ぽいなあと思ったら、調べたらユーゴ―の叙事詩「マゼッパ」をイメージした標題音楽なんですね。
そして、なんと、アンコールでラヴェルの鏡!これは嬉しかったです。
ラヴェル、やっぱりフランスすごく今回多かったと思います。指が鍵盤の上で飛び跳ねていました。音符の道化師が歌って踊っていました。
最後の挨拶までとにかくカッコよかった。ブラボー!!!


Y.Mさん              ねこふんじゃった

なんと、司会の私にとっても最後にものすごいサプライズがありました。
演奏会も終わりに近づいたころ、最年少の子が、みずから私のところに来て、「飛び入りでもう1曲弾きたい」と言いました。
そこでトリの1つ前はどうかと提案したら、「最後がいい」と自分の意志でオオトリを望みました。
この度胸はただものではなく、ぜひ望みをかなえてあげねばということで、今年のアフタヌーン・ピアノンノの最後を締めくくっていただきました。
猫ふんじゃった、誰もが知る有名なこの曲を、最後までしっかりノーミスで弾ききってくれました。圧巻です。マンモスブラボー!!






終わってみると、この演奏会が本当にあったのか?夢だったのではないか?と思うくらいに遠い夢の中の出来事だったような錯覚におちいります。それくらい、楽しく、驚きにあふれ、心豊かで、そして安らぐひとときでした。

あの場にいることができて、皆様の演奏が聴けて、こんな嬉しいことに今年も立ち会えた幸運に感謝しかありません。



来てくださったみなさま、写真のH.Kさん、PAのI.Kさん、プログラムのA.Oさん、タイトル画のM.Mさん、本当にありがとうございました。


そしてまた来年、あの場所がありますように。








2024年7月29日月曜日

AFTERNOON PIANONNO 2024 ご参加御礼!

 AFTERNOON PIANONNO 2024にご参加くださった皆様

昨日7/27、無事に12回目のAFTERNOON PIANONNOを終えることができました。まずは、来てくださった皆様に御礼申し上げます。




今回のAFTERNOON PIANONNOは、個人的に「人を育てる」ということの素晴らしさを認識した会であったように感じました。


まず、小さかった子供たちは成長して青年になり、自分で世界を広げ、そこで得た友達を連れてきてアンサンブルを聴かせてくれました。
音大から音大の大学院に進み、半ばセミプロとして演奏活動もされている人も。
若い人たちがそれぞれに成長した姿を見るのは本当に感慨深く、気持ちのいいものです。自分も学生時代に戻りたくなりました。


そして今回は、ピアノ教室の小さな生徒さんがいっぱい来てくれました。「飛び入りで弾きたい」と自分から言ってくれた子も。これは本当に嬉しかった。こんな頼もしいことはありません。
今のまま、その自由な感性で、のびのびと、楽しく、音楽を感じていてほしいと、心からそう願わずにはいられません。


そんな音楽を楽しんでいる青年たちや子供たちを導いている先生方、そしてあたたかく見守っているご家族や皆様、本当に素晴らしい方々だなあとしみじみ思いました。
東日本大震災の復興ソングの「花は咲く」に「私は何を残しただろう」という歌詞がありますが、こうやって次の世代になにかを残していくことは、なによりも尊いことですね。


そして、持ち寄りの絶品パンナコッタ!大人気でした。普通にお店の売り物レベル。これもAFTERNOON PIANONNOの楽しみの一つ。


一転してアフターでは、はじけた大人たちのコアな世界でした(笑)
あまり耳慣れないマイナーな曲をリクエストされて初見で弾く現役音大生のすごさだったり、プロの世界にいたシンガーの空から降ってくるような歌声に聞きほれたり。
いつまでもこの時間が続けばいいのにな、と。






皆様、楽しいひと時をありがとうございました。







飛び入り含めた最終的なプログラムを掲載しておきます。氏名はイニシャルにしています。


●第1部
M.M            ブルグミュラー  アラベスク
H.N            マイカバル  ワルツ
              カラフルピーチ  OnParty!
S.S            モーツァルト  トルコ行進曲
Y.S            ギロック  ウィンナーワルツ
M.I            田中カレン  「星のどうぶつたち」より 「きりん」
              スカルラッティ  ソナタ K.159L104ハ長調
Y.S・M.O          黒須克彦  夢をかなえてドラえもん
Y.O             サティ  ノクチュルヌ 第1番
Y.M・K.S          リチャード・ロジャース  ドレミの歌
              HansZimmer/KlausBadelt/GeoffreyZanelli  彼こそが海賊
K.S            ドビュッシー  ベルガマスク組曲より 月の光
M.M             シューマン  幻想曲Op.17第3楽章


●第2部
M.M・T.M          AlanMenken  UndertheSea
K.O            ブルグミュラー  マーチ
              ウォルピスカーター  天ノ弱
Y.N・H.N          行進曲メドレー(おもちゃの兵隊の行進~トルコ行進曲)
E.U            バルトーク・ベーラ  ルーマニア民族舞曲
              アラム・ハチャトゥリアン  トッカータ 変ホ長調
A.M            飯田俊明  沁みる夜汽車
              加古隆  グラン・ボヤージュ
S.S・K.S          大野克夫  名探偵コナンメインテーマ
Y.M             ショパン  スケルツォ2番


●第3部
W.O             ショパン  ワルツKKⅣb-11
              あいみょん  愛の花
Y.N             カバレフスキー  ウクライナ民謡による7つの陽気な変奏曲
A.O・T.S・Y.M       加古隆  パリは燃えているか
M.O            ラヴェル  水の戯れ
              ベートーヴェン ソナタ「月光」第3楽章
A.O・M.O         松本文紀  刻ト詩(ときとうた)
M.I            リスト  超絶技巧練習曲 第4番「マゼッパ」ニ短調S139-4
              ラヴェル  鏡より第4曲「道化師の朝の歌」
Y.M             ねこふんじゃった




PA機材とコーヒーメーカーをご提供いただいたI.Kさん、ありがとうございました。今回風邪でご参加かなわず残念ですが、来年こそ絶対に一緒に合わせましょう!
写真担当のヒデヒロくん、いつも素敵な写真をありがとうございます。トリの出演交渉のシーンはこれぞスナップショットでした!
キャンバスを描いてくださったM.Mさん、ピアノ座素敵ですね。発想が素晴らしいです。いつもありがとうございます。
プログラムを作って下さったO家のみなさま、素晴らしい構成とほっこりデザイン、いつもありがとうございます。歴史が1つ増えました。
そして、いっぱい弾いて聴いてくださったすべてのみなさま、ありがとうございました。





これから私はブルーレイ・DVD作成に入ります。一緒に所感も書きます。若干お時間いただくかもしれませんが、今しばらくお待ちください。


ではでは。まずは御礼まで。






2023年8月3日木曜日

AFTERNOON PIANONNO 2023 Blu-ray

演奏会本番のブルーレイが焼きあがり、発送いたしました。





 今年のアフタヌーン・ピアノンノも、これですべての作業が完了しました。色々お手伝いいただいた皆様、本当にありがとうございました。


私自身は、演奏会前々日くらいからひたすら走りっぱなしでしたが、これで一息。今日からしっかり睡眠をとって、日常に戻ります。





次は、また1年後に向けて、まずは自分の曲選びからですね。

みなさん、次は何を弾くんだろうか。子供たちはどうしているだろうか。



いろいろ人生ありますけど、いい時も悪い時も、それがずーっと続きはしないので、1ターンごとに、やるべきことをやるだけ。そんな感じで、その年の反省点を踏まえつつ、一歩一歩、アフタヌーン・ピアノンノを刻んでいけたらと思います。



お越しくださったみなさま、ありがとうございました。

また来年、お会いできますように。






2023年7月31日月曜日

AFTERNOON PIANONNO 2023 M.Oさんの雑感!!!

 O.Mさんが、演奏会の翌日に、雑感をまとめて送ってくださいました!!!


いつもありがとうございます。本当にありがたいです。そして今回も面白いです。

ぜひ最後まで読んだら、コメントしてくださいね!!



ここから--------------------------------------------------------------------------


こんばんは。

昨日はアフタヌーンピアノノンノ2023、企画運営ともどもお疲れ様でした。

企画がなければ皆が集まる事もなく、ともあれ多少人数が減ったとしても開催できてよかったです。


こじんまりしていた印象ではありますが、それはそれで寂しさというより和気あいあいな感じが勝っていたように感じます。

そして、やはり久々に聴いた自分以外の人が弾く生ピアノそして生楽器の演奏、もうそれだけでかなり幸せな気分となりました。


私の住む近所にはストリートピアノはありませんし、この5年くらいは演奏会に行く事もありませんでしたから、本当に久々に自分以外の人が弾く生ピアノを聴きました(以前は高校に勤めていたので吹奏楽とか音楽室で何か弾いている生徒がいたものでしたが)。


アフターも皆さん、きままに弾いていてとても雰囲気が良かったと思います。


さて感興が残っているうちにと思って、感想というか雑感を一気にまとめました。少々マニアックな内容も含まれますが、勢いで書いているのでご容赦ください。


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●第1部

M.Mさん  折坂悠太 世界のつづき

 今回の演奏会ではアニメーション作品の音楽がかなり多かったですが、冒頭から「ONE PIECE FILM RED」からの音楽。豪華絢爛たるUTAの印象が強いので、こういったシンプルな楽譜もあるのかという驚きと同時に、M.Mさんの演奏はシンプルでも一音一音の歌詞の意味の重みがあって、映画もしくは原曲から何を感じたかが良く伝わってくる演奏でした。


K.Mさん  ディズニーソング 美女と野獣メドレー

 続くアニメーション&実写作品の音楽。まあ古典作品ですから、エンターテイメント総合音楽と言ってもいいかもしれません。そして、需要があるので様々なバージョンの編曲もあるようですが、今回のものはなかなかに本格的なメドレーで、性格変奏的な要素もアリ聴きごたえも十分。K.Mさんは、それぞれの楽想をうまく弾き分けて、一つの大きなドラマを見たような気分になりました。


Y.Kさん  野田洋次郎 スパークル

 アニメーション音楽が続きます。新海誠監督「君の名は。」の音楽。個人的にかなり感動した作品なので、こうしてピアノソロの演奏が聴けるだけも嬉しかったです。Y.Kさんは映画を観たのでしょうかね。もう7年前の作品なので、公開時にはまだちょっと難しい内容だったのではと思ってしまいました(年寄の雑感)。まあ、その後もTV放映されたり、配信されたり、音楽自体は様々な場面で流れたりと、この曲に出会う事には不思議はないですね。仮に作品を知らなくても良い曲ですし、相当に音楽に語らせてるアニメーション作品ですので、音楽だけでもどんな作品かわかるかと思います。

で、Y.Kさんの演奏ですが、改めて演奏を思い返すと、やはり「君のは。」観てますよね。観てないとやはりこういう大きなうねりを感じさせるような演奏にはならないと思います。楽譜には細かい指示はないですからね。


S.Kさん  ブルグミュラー アラベスク

ピアノ学習者には懐かしの曲ですが、大人の皆さん、この曲がなぜアラベスクなのか疑問に思った事はないですか?小学生ならば、「何か行進曲的な作品」と思っているような気がしますし、それで一向にかまわないと思うのですが、S.Kさんの演奏を聴いて、久々にこの「なぜこれがアラベスク?」という疑問が復活したのでした。アラベスクは直訳すると唐草模様。イスラム世界の幾何学模様の一種のことです。音楽でアラベスクと題する場合、やはり音型の対称性や反復性がある事が多いですが、この曲にはそういった気配があまり感じられません。

S.Kさんの演奏ではしっかりとした足取りの冒頭フレーズとテンポが落とした中間部が特徴的で、いつもなら聞き流してしまう所が良く聞こえて新鮮でした。そして、「もしかしてイスラム勢力がヨーロッパに侵攻してきた」という情景を「アラベスク」というイスラム様式の一語に表したのかなと妄想しました。つまり、行進曲でいいのかもしれません(と、同じような事を以前にも書いた気がする)。


S.Kさん 親子連弾  クラウス・バデルト/ハンス・ジマー 

He's A Pirate 奴こそは海賊

 「パイレーツオブカリビアン」、何年前の作品かと思ったら、もう20年前なのですねえ。そして、ディズニーランドのアトラクションにもなって、映画のシリーズが終了しても音楽が残るという事で、今回のように弾き継がれてゆく事を実感しました。親子連弾、荒々しい轟音伴奏が前面に出ていて、S.Kさんの勢いもより出ていたと思います。連弾はこういう音の補強要素があるから良いですね。久々にオリジナルの楽曲を聴いたら、「あれ、こんなに上品な感じのオケ合奏だっけ」と思ってしまいました。音楽が作品から独り歩きして発展してゆく現場をみた気がします。


H.Sさん  Mack David / Al Hoffman シンデレラ・メドレー

 続いてディズニーシリーズですね。浴衣姿のシンデレラ。同じような事をまた書きますが、やはりこの古典曲が姿を変えてこうして新しい世代に弾かれるのは良いですね。 なんせオリジナル曲は73年前の1950年ですから。こちらのメドレーはどちらかというと可愛い系のもので、H.Sさんの演奏も愛らしいの一言です。


H.Sさん 親子連弾  Alan Menken フレンド・ライク・ミー

 もうひとつディズニーで、実写版の方の「アラジン」。実写版「アラジン」はアニメ版と違い、イスラム的な音楽でなく、1920年代ジャズ風の音楽。それが独特な世界観の実写版「アラジン」の背骨になっているような気がします。まあ、ジャズ風というかジャズですね。

H.Sさんもまた連弾となったら、シンデレラから変幻自在に暴れまわる妖精のような演奏になりました。K.Sさんの伴奏もH.Sさんの揺らぎに臨機応変に対応してセッションのようになり、ジャズらしさが前面に出ていてよかったです。


K.Sさん  ドビュッシー アラベスク第1番

 こちらのアラベスクは本来の意味でのアラベスク(唐草模様)で、独自の和声による分散和音が美しい小品です。「まだ練習不足」と言っていましたが、音の明晰さが際立っていて、ゆっくりしたテンポでこの曲の音型パターンがよく聴き取れて、ある意味「アラベスク」らしい演奏でよかったです。一方で無味乾燥に進みがちな中間部の音色が豊かでこれもまた趣が深い。このアラベスク、多くの人の演奏は「水のきらめき」のような表現でサラサラと進むことが多く、それはそれでいいのですが、K.Sさんの場合、モスクのタイルの唐草模様を職人が手作りしている光景が浮かぶようなそんな演奏でした。


M.Oくん  クレメンティ ソナチネ Op.36-2 第2楽章

 記憶力が衰えて確証はないのですが、M.Oくんの弾いたのはOp36-2ではなくて、Op36-6のような気がするのですが、どうでしょうか。そうでなかったらすいません。

まあ作品名は二義的な話で、M.O君の演奏、骨太な感じで、やはりベートヴェンのピアノ作品の手本となったクレメンティらしさを感じました。クレメンティ、イタリア出身ですがイギリス育ちでイギリスでの名声が高い人です。いわば、ヘンデルやハイドンの系列に入るような作曲家でそういった面でもかっちりした構成主義な作品の良さをM.Oくんの演奏は体現していたように思います。なお、ドビュッシーの「子どもの領分」で有名な「グラドゥス・アド・パルナッスム」ですが、実はクレメンティが作った教則本です。


M.Oさん  リスト 愛の夢 第3番

 M.Oさん、前口上で「昔は『愛の夢』をラブラブな曲と思っていた」と言っていて「ラブラブなら『夢』とは言わないのでは」とツッコミをいれつつ、調べたら、原曲の歌曲では3番の元々の表題は「おお、愛しうる限り愛せ」というもので、ラブラブな二人ではないにせよ「女性に対して強く恋愛を奨励する歌」という意味ではまああながち間違ってはいません。第一印象大事です。

そして、いざ演奏を聴くと、しっとりした一音一音重さのあるテンポで「フジコヘミングの演奏で印象が変わった」という言葉もうなずけます。そして、ソフトペダルなしで全曲音色弾き分けという力業。しかも盛り上がる箇所でも決して音が濁らないという凄さ。実はフジコヘミングの演奏では、伴奏が靄のかかったような、絵画に例えるならモネのような表現なのですが、M.Oさんの演奏ではマティスのように鮮やかでした。




●第2部

M.Oくん・A.Oさん(vn)・M.Oさん(鍵ハモ)  ゴダイゴ 銀河鉄道999

 この曲、いつのまにかJRの定番曲になりつつあり、松本零士とゆかりのある山陽新幹線の発車音楽だけかと思っていたら、なんか鉄道100周年のイべントでもよく流れていました。発車音楽には弦と鍵盤ハーモニカ的な音も入っているので、今回の演奏はまるで博多駅にいるように錯覚してしまいました。とはいえ、生演奏でしかも合奏ですから、(原作とは違う美形キャラになった)アニメ作品での哲郎の精悍さも味わう事ができました。A.Oさんのヴァイオリン、やはりボーイングも音程も安定して良い感じになっていました。鍵盤ハーモニカも存分に歌えるから良いですね。ピアノ伴奏も柔軟さがあって合奏の良さを感じました。


A.Mさん  坂本龍一 鉄道員(ぽっぽや)

       坂本龍一 Energy Flow

 坂本龍一はピアニストのグレン・グールドが好きで、グレン・グルードが好きと言う事は、坂本龍一はピアノをピアニスティックに弾くことは好まないという事になります。実際、彼の演奏を聴くとかなり淡々としたもので、ピアノはあくまで音を出すため道具で、設定した通りの音程・音色が出ていればよいとでも思っているかのような感じでした。元々は前衛音楽家ですから、そうであっても不思議ではありません。とはいえ、彼の作った抒情的な作品群は多くの人を魅了し、彼の演奏を参考に感情を抑制した演奏をする人が多い気はします(そもそも、そう演奏できるように作られている)。

しかし、A.Mさんの演奏は、極めてピアニスティックかつ情感を湛えた坂本龍一でした。「ピアニスティック」とはピアノという楽器の特性をフル活用しているということです。でも、そういう作品じゃないので、本来は無理があるはずなのです。それでも、その無理を押し通すのがA.Mさんなのです。「情感を湛えた」というのは、別にテンポを揺らすとかコブシを入れるとかでなく、一音一音に強い想いを入魂している感じなのです。これも、坂本龍一の作法とは真逆な訳で、つまりは坂本龍一を通したA.Mさんの世界が具現化したのです。ともあれ、圧巻でした。


M.Iさん  バッハ パルティータ第1番 BWV825 メヌエット1、メヌエット2、ジーグ

 A.Mさんのピアニスティックな演奏から、アーティキュレーションが明確なややグールド寄りのM.Iさんのバッハ演奏。坂本龍一が好きだったグールドといえば、やはりバッハ。なかなか練られた順番です。グールド寄りといっても、メヌエットのニュアンスの変化、ジーグの思い切った疾走感など、M.Iさんならではの味わいでバッハの面白さを再認識させてくれました。


N.Tさん  坂本龍一 Merry Christmas Mr. Lawrence

 そして坂本龍一に戻ります。「坂本龍一を偲んで」ということで、Merry Christmas Mr. Lawrence 。この曲はおそらくは最も世の人に知られた曲で、これから彼が思い出される時には必ず想起される音楽でしょう。この曲の元である映画「戦場のメリークリスマス」は一言でまとめれば「立場の違う人々が不思議な縁で親交を結び、時代の流れで最後は死んでしまう」という話で、映画の最後の台詞がまさに「Merry Christmas Mr. Lawrence」なのです。N.Tさんの演奏は、徐々に変容してゆくメロディそしてミニマムに刻まれるリズムに存分に哀悼の想いを込めて歌い上げてくれました。A.Mさんとはまた違った形の作曲者への愛の形だと思います。


M.Iさん  ショパン 練習曲 Op.10-1

   リスト リゴレット・パラフレーズ

 哀歌の次は、さんさんと照る太陽のようなM.Iさんの演奏でした。Op.10-1は息の長いフレージングをきっちりコントロールしていて、小節ごとに移ろう色彩をしっか弾き分けていました。テクニックには、早く正確に明確に弾くという事は無論ありますが、イメージした音を実際に具現化できるかという事もあり、それがなかなか大変だろうと想像するのですが、既にもうそのレベルに達していて、その備わったツールを使って自分の音楽を構成しているという感じの堂々たる演奏でした。

リゴレットパラフレーズは、リストにありがちなオペラ啓発のためのコンサートピースでかなり技巧的な作品です。今でいう所のディズニーメロディーのようなものですね。リストの演奏会に来た観客が「あ、このメロディ知ってる!」となるように装飾的なパラフレーズの中にうまい具合に歌の旋律を潜ませてウケを狙うという感じです。とはいえ、現代人にとって、ベルディのリゴレットを通しで鑑賞するのはブルーレイでも容易ではなく、図らずもリストのこうした編曲でリゴレットのメロディが伝承されるという事になっています。M.Iさんの演奏は、不必要に技巧だけに走らずオペラの各メロディをまさにベルカントで歌っているかのようにテヌートなどを入れて表現し、まさに作曲当初の目的に沿った演奏でした。




●第3部

M.Oさん  ハチャトリアン こどものアルバム「少年時代の画集」より 「小さな歌(イワンの歌)」

       ガルッピ ピアノソナタ ハ長調 1楽章

       バルバトル ロマンス

 前口上でも語りましたが、改めて。音楽との出会いとその後は「曲名がすぐわかり、楽譜もすぐに手に入る」「曲名もわからず、楽譜も手に入らない」「曲名はわかったが楽譜が手に入らない」の三つのパターンがあり、ハチャトリアンは最初のパターン。ガルッピは二番目のパターン。そしてバルバトルは三番目のパターンでした。

ハチャトリアンは北大ピアノクラブ時代のM.Mさんが演奏会で弾いたのが出会いで、すぐに楽譜を買いました。全音の楽譜には「小さな歌」と題されてましたが、どうもそれはイギリスの出版社がつけた題名らしく、元々は「イワンの歌」だったようです。作曲時期もまだ作曲家として地位を確立してないアルメニア時代のもので、まさについこないだの少年時代の印象という事です。そして、その時点で作風が確立しているのはさすが民族主義の作曲家です。最近は作曲者本人の演奏も見る事ができ、参考にしつつも、もうちょっとセンチメンタルな感じで演奏しました。

ガルッピのソナタはFMの音楽番組のテーマ音楽としてずっと流れていて、だいたいそういうのは番組が始まった時に紹介さてその後は言及されないもので、謎の曲でした。が、なんとミケランジェリがかなりな頻度で演奏している事がわかり、その録音がテーマ音楽として流れていたのでした。曲名はわかりました。しかし楽譜が見つからない。しかし、昨年、某IMPSLであっさり発見。目出度く弾く事ができるようになりました。 

バルダッサーレ・ガルッピはイタリアバロック後期のヴェネチアのオペラ作曲です。ソナタはその彼が残したチェンバロの音楽です。同時代のC.P.Eバッハなどとはまた違った、晴れわたった地中海の陽光を彷彿とされるようなシンプルで美しい音楽です。なかなかこの曲の透明感が出せずに苦労しましたが、やはり音が濁ってしまいました。

最後の「ロマンス」は、フランス王政時代末期の作曲家、クロード=ベニーニュ・バルバトルの作品です。これはヨウラ・ギュラーという名ピアニストが弾いていたのを気に入って、曲名はその時点でわかったのですが、楽譜がなかなか見つかりませんでした。欧州に旅行した時も、結構あちこちの楽譜屋さんを探しましたが見つかりませんでした。が、やはり某IMPSLのおかげで昨年、楽譜も手に入りついに弾けることになりました。ちょっと早めのテンポで始めてしまいミスタッチの連続となってしまいましたが、フランス王政時代末期のロココ趣味な感じが少しでも伝わっていれば幸いです。


A.Oさん、M.Oさん連弾  鷲巣詩郎 映画「新劇場版エヴァンゲリオンQ」より Quatre Mains

 バロム1などのピー・プロ特撮を作った父親、そして「サザエさん」「サスケ」などを手掛けたアニメ制作会社エイケン創業者の叔父に囲まれてで育った鷺巣詩郎は当然のことながら特撮・アニメ漬けの少年期をすごし、ゴジラの伊福部昭の影響を受けつつ、作曲家として独立した後も、やはり当然ながら特撮魂な庵野秀明と意気投合します。その特撮魂がアニメ・エヴァンゲリオンの音楽に結実しました。その後、庵野秀明がファンに「迷走しているのか?」と言われた新劇場版エヴァンゲリオンQに提供されたのがこの作品です。確かに前作に続き謎解きはさらに混迷を深め、設定も唐突さは否めない所はありますが、やはりスパイスのようにこのフランス近代(しかも、イベールとかの方向性)っぽいQuatre Mains が入っていて、鷺巣詩郎は庵野監督の事をわかっているなと思ったものでした。Quatre Mainsは直訳すれば四手、つまりは連弾という事になりますが、エネルギーに溢れる曲想で、シンジとカヲルの忌憚なきぶつかり合い(つまりは監督とファンとのぶつかり合い)をうまく表現している楽曲です。ひく予定だったものが中止になって、ついにお披露目となってよかったです。親子ともども譲ることなく、溜めてきたものが一気に噴き出していた感じで、「サードインパクトから14年」という訳ではないですが、A.Oくんも背が伸びて筋力も増大して時間の流れを感じざるを得ない豪快な連弾でした。


M.Mさん  スクリャービン ピアノソナタ第3番 Op.23 第1楽章

 スクリャービンのこの曲、個人的にM.Mさんのこのテンポが好きなのです。でも、なかなかこのテンポで弾く人がいない。近いのはグールドの演奏ですが、あまりスタンダード扱いはされてない。確かにdramaticoの指示の通りなら、どうしたって最初にガツンと始めたいでしょうから、そこからテンポを落とすのは不自然でしょう。とはいえ、この曲にはやはり官能性を漂わせ欲しい。そして、M.Mさんのテンポでじっくり音色の階層の揺らぎや遷移を観ていたいのです。ドラマといっても、常に劇的とは限らない。そういう意味で、他では聴くことのできない貴重な演奏で大いにスクリャービンを堪能できました。




●おまけ:アフターピアノンノ雑感


いつもより皆さん、自由にあれこれ演奏していて楽しかったですが、特に


鍵盤ハーモニカとピアノの合奏による

「ニューシネマパラダイス」「ピアソラのリベルタンゴ」「ハウルの動く城」、

ヴァイオリンとピアノ合奏の「情熱大陸」、

ジョージアの作曲家アラザシビリ「無言歌」の初見演奏、

カバレフスキー「ソナチネ」、ショパン「子守歌」、ガーシュイン「前奏曲」

ハチャトリアン「エチュード」

ショパン「夜想曲Op.9-2」


などが印象に残りました。


アラザシビリ「無言歌」はヴァイオリンや鍵盤ハーモニカと合わせても凄く合いそうだと思いました。やはり歌ですからね。


ここまで-----------------------------------------------------------------------------



M.Oさんの雑感はいつも、ウィットに富んでしかもロジカルで、読んでいておもしろく勉強になります。でも寝てないんじゃないかと心配になります。ちゃんと寝てくださいね。


ありがとうございました!!!